
ある日突然、「片側の顔が動かしにくい」「目が閉じにくい」「口から水がこぼれる」「笑ったときに顔の左右差がある」といった症状が現れる顔面神経麻痺。
顔面神経麻痺の鍼治療について、「発症してすぐに鍼を受けた方がよいのでしょうか」「病院の治療と一緒に受けても大丈夫ですか」というご相談をいただくことがあります。
顔面神経麻痺では、鍼灸を始めることより先に、まず医療機関で原因や麻痺の程度を確認し、必要な治療を受けることが大切です。
今回は、顔面神経麻痺を発症したときの初期対応と、病院での治療と鍼灸をどのように考えるか、さらに中国鍼灸・健身院で行っている「経筋透刺法」についてご紹介します。
顔面神経麻痺を発症したら、まず医療機関へ
顔面神経麻痺とは、顔の表情を動かす顔面神経の働きが低下し、主に片側の顔の筋肉が動かしにくくなる状態です。
代表的なものに、原因を特定できないことも多い「ベル麻痺」と、水痘・帯状疱疹ウイルスが関係する「ラムゼイ・ハント症候群」があります。
顔面神経麻痺が疑われる場合には、鍼灸院へ来院する前に、まず耳鼻咽喉科などの医療機関を受診してください。
特にベル麻痺では、発症早期のステロイド治療が標準的な治療として推奨されています。ラムゼイ・ハント症候群についても、耳の痛みや水疱、難聴、耳鳴り、めまいなどを伴うことがあり、早期の診断と治療が重要です。
また、顔の麻痺に加えて、手足のしびれや脱力、言葉の出にくさ、激しい頭痛などがみられる場合には、脳の病気が関係している可能性もあります。このような場合は速やかに医療機関を受診してください。
顔面神経麻痺の鍼治療はいつから始める?
「早く治したいから、すぐに鍼を受けた方がよいのでは」と考える方もいらっしゃいます。
しかし、当院では顔面神経麻痺を発症した場合、鍼治療を先に受けるのではなく、まず医療機関で診断を受けることをおすすめしています。
顔面神経麻痺は、原因だけでなく、発症からの期間や麻痺の程度によっても対応が異なります。
医療機関で必要な治療を受けたうえで、現在の状態を確認しながら鍼灸を併用する、というのが当院の基本的な考え方です。
病院で処方された薬を服用している期間であっても、必ずしも鍼灸を受けられないということではありません。現在受けている治療内容を確認したうえで、無理のない施術方針をご提案します。
同じ顔面神経麻痺でも、状態は一人ひとり違います
顔面神経麻痺では、病名だけを見るのではなく、現在どの程度顔が動いているのかを確認することが重要です。
当院では、額・目・鼻・頬・口元などの動きを確認しながら、麻痺の程度や回復段階をみていきます。
- 額にしわを寄せられるか
- 目を軽く、または強く閉じられるか
- 頬を膨らませることができるか
- 口元を左右均等に動かせるか
- 耳の周囲に痛みや違和感がないか
- 味覚異常や音が響く感じがないか
- 発症からどのくらい経過しているか
医療機関で用いられる柳原法やHouse-Brackmann法などの評価法も参考にしながら、顔の動きや症状の変化を確認していきます。
当院が行う「経筋透刺法」とは

中国鍼灸・健身院では、顔面神経麻痺に対して「経筋透刺法(けいきんとうしほう)」を用いています。
透刺法は、一本の鍼で関連する複数のツボを刺激する、中国鍼灸で古くから用いられてきた刺鍼方法の一つです。
当院では、この透刺法のなかでも複数のツボや筋肉のつながりを考えながら刺激する「経筋透刺法」を、顔面神経麻痺の状態に合わせて用いています。
重要なのは、「強く刺せばよい」「たくさん刺激すればよい」ということではありません。
麻痺の程度や発症からの時期、表情筋の状態などを確認しながら、 鍼を入れる位置・方向・深さ・刺激量を細かく調整すること を当院では重視しています。
顔だけを見るのではなく、首や肩、手足なども含め、全身の状態を確認しながら施術を行います。
回復期は「動かせば動かすほどよい」とは限りません
顔面神経麻痺では、回復してくると「早く元に戻したい」と、顔の筋肉を一生懸命動かしたくなるかもしれません。
しかし、回復過程では、無理に強い運動を繰り返すことが適切ではない場合があります。
顔面神経が再生していく過程で、本来とは異なる筋肉が一緒に動く「病的共同運動(シナキネシス)」が生じることがあります。
たとえば、
- 口を動かすと同時に目が閉じてしまう
- 目を閉じると口元まで動いてしまう
- 顔の一部にこわばりや引きつれを感じる
といった状態です。
そのため当院では、回復段階を確認しながら、必要に応じて無理のないセルフケアについてもお伝えしています。
当院の顔面神経麻痺への施術で重視していること
- まず医療機関で原因や重症度を確認する
- 病院での治療を妨げず、併用して鍼灸を行う
- 顔の動きや麻痺の程度を確認する
- 発症からの時期・回復段階を確認する
- 経筋透刺法を状態に合わせて用いる
- 鍼の方向・深さ・刺激量を一律にせず調整する
- 過度なリハビリを避け、回復段階に応じたセルフケアを考える
施術を担当するのは、上海中医薬大学卒・元主治医で臨床歴40年の朱錫龍院長と、南京中医薬大学大学院修了・医学博士で臨床歴34年の姚依文副院長です。
中国で学んだ鍼灸の専門技術と長年の臨床経験を活かし、顔面神経麻痺の状態を確認しながら直接施術を行っています。
病院で治療中の方もご相談ください
「病院でステロイドなどの治療を受けているが、ほかにもできることを探している」
「鍼灸を始めるタイミングが分からない」
「顔が少し動くようになってきたが、後遺症が心配」
このような場合も、現在の症状や医療機関での治療内容を確認したうえで、鍼灸をどのように併用するかをご相談いただけます。
顔面神経麻痺では、発症した時期や麻痺の程度によって対応が変わります。自己判断だけで施術やリハビリを始めるのではなく、その時点の状態に合わせて進めることが大切です。
監修・執筆:院長 朱錫龍/副院長 姚依文