鍼で症状を緩和し、副作用の少ない治療を
パーキンソン病は「振戦麻痺」とも呼ばれる疾患です。「振戦」とは「ふるえ」の意味で、緩慢な動作と手足のふるえなどが特徴です。脳内のドーパミン不足が原因で起こる神経変性疾患のひとつとされています。
「パーキンソン病」という名前は、1817年、最初にこの症例を報告した、イギリスの外科医、ジェームズ・パーキンソンに由来します。有病率は10万人あたり164.5人で、女性より男性に起きやすい病気です。これまで治療は薬物療法が中心でしたが、副作用等で患者の生活の質が低下するため、最近では鍼治療による症状緩和の必要性が注目されています。

パーキンソン病の症状
パーキンソン病は、中脳で作られる神経伝達物質・ドーパミンの不足により、特徴的な運動症状をきたす疾患です。パーキンソン病の主な症状は次の四つです。
○安静時のふるえ
○全身の筋肉の強ばり
○動作の緩慢
○姿勢の不安定さ
これらの症状に加え、便秘や手足の冷え、排尿障害、さらには抑うつ症状などの非運動症状を伴うことも少なくありません。病状の進行は遅く、時間をかけて徐々にひどくなっていきます。
薬物療法の限界
これまでパーキンソン病の治療は、ドーパミンの補充など薬物療法を中心に行われてきました。しかし、病気の進行に伴って薬物に対する感受性が低下するため、次第に安定した治療効果が得られにくくなるという問題がありました。さらに非運動系の症状が現れたり、薬物療法の副作用が現れたりすることで、患者のQOL(生活の質)が低下するという問題も指摘されています。そのため、昨今では、鍼灸によりパーキンソン病の症状を緩和することが必要だとの声が増えています。
パーキンソン病の鍼治療
中国の古代医書「素問・陰陽応象大論」に「強直化する原因は風にあり」という教えがあります。中国医学でいう「風」には「内風」と「外風」がありますが、パーキンソン病は「内風」が起こす疾患だと考えられています。つまり、怒りっぽくなるなどの感情の起伏、抑うつ、こむらがえり、不眠やめまいなどの「肝」の病症、さらに手足の重だるさ、健忘など加齢とともに進む「腎」の病症が多いということです。中国では古来、現代でいうパーキンソン病を鍼で治療してきました。最近では、こうした経験則による治療が科学的な臨床研究によっても裏付けられつつあります。
例えば、明治国際医療大学の福田晋平助教らによる臨床研究(2012年)年では、鍼治療によってパーキンソン病の諸症状が有意に改善されたと結論づけています。また2006年のJiang氏らによる研究では、薬物療法と鍼治療とを組み合わせたところ、筋力などの運動能力が有意に改善すると報告されています。
健身院の鍼治療の特徴
当院では、従来からの鍼療法に加えて、近年開発された頭皮針療法を採用。両者を交互に行うことで、よりよい効果が得られるようにしています。運動症状に特異的なツボとして、ふるえに対しては曲池–合谷、足三里–三陰交への電気パルスを使った鍼療法、筋肉の強ばりには曲池、手三里、陽池などを使って治療します。
パーキンソン病の場合、運動障害の症状のほか自律神経などにも障害がある場合が多く、便秘や起立性低血圧、感情鈍麻、うつなどの症状も適切に治療しなければなりません。こうした鍼治療によってパーキンソン病の症状を軽減させ、投与する薬物の量を極力増やさず、副作用の発生を未然に抑えるのが目的です。
パーキンソン病には根治がありません。長期間にわたる闘病生活を送る患者様の生活の質を維持・向上させることが大切です。当院としても、今後ますます力を入れていきたい分野です。