顔面神経麻痺30代女性の治療例

当院には、顔面神経麻痺の患者様が大変多くいらっしゃいますが、今回は、ヘルペス(帯状疱疹)を患ったのがきっかけとなって顔面神経麻痺に罹った実例をご紹介します。30代女性のケースで、専門的には「ラムゼイハント型顔面麻痺」と呼ばれるケースです。


この方が異常に気がついたのは、耳に激しい痛みを感じたからです。触ってみると、耳の周辺に水疱ができていました。夜のことだったので、翌日病院に行こうと思ったといいます。ところが朝起きると、歯磨きをするとき水が口からこぼれるようになっていました。鏡を見ると、自分でわかるほど口が歪んでいます。さらに、目を閉じることもできません。慌てて病院に行くと、帯状疱疹による顔面神経麻痺と診断されて、そのまま入院しました。10日間入院しましたが、退院するときも麻痺の症状はよくなっていなかったので、別の鍼灸院を受診し5回治療をしましたが、あまり変化は見られませんでした。当院に見えたのは発症してから20日後のことです。病院では手術を勧められましたが、リスクや後遺症を考えて手術はしないことにしたというお話でした。


当院に来院された時は、涙目で、口が歪んでおり、耳の強い痛みを訴えていらっしゃいました。舌を見せていただくと色が赤くなっており、表面の苔は薄い黄色を呈しています。耳たぶの周囲に帯状疱疹による水疱があり、強い痛みがあることからラムゼイハント型顔面麻痺と診断しました。


ラムゼイハント型顔面麻痺は、単純ヘルペスウイルスによる「ベル麻痺」に比べると治りが悪く、治った場合も後遺症を残す確率が大きいことで知られています。耳鳴り、難聴、めまいなどの症状が合併する場合も多いようです。中国医学の見地からいうと、顔にある「陽明経」「少陽経」等と呼ばれる気の通り道の流れが滞り、「風熱の邪気」に侵されることにより、経絡(気の通り道)と筋肉の栄養が失なわれて、発症します。そのため、治療方針として、①疎通経絡=経絡の流れをよくする②活血祓風=邪気を追い出して血流を改善③濡養経筋=元気を失った経絡と筋肉を気血で潤わせるこの三つを目的に鍼を打つこととしました。ツボは主に「陽明経」、補佐的に「少陽経」に属するものを使います。麻痺の部位により微妙に鍼の打ち方を変えることで、治りを早くするよう心がけました。


10回の治療を1クールとして、2クール連続して鍼治療を行い、その結果、顔の麻痺はほとんど回復し、日常生活では全くわからなくなりました。ご本人には、手術をしないでよかったと大変喜んでいただきました。顔面神経麻痺は鍼灸院選びが大切です。