ベル麻痺による鍼灸治療

 

鍼灸治療というと、一般的に肩こり、腰痛などのイメージが強いようですが、実は多くの神経症状にも効果を発揮します。

 

当院では24年前の開院以来、顔面神経麻痺の治療に力を入れてきました。顔面神経麻痺には大きくいって二種類あり、片側の顔の筋肉がコントロールできなくなるベル麻痺と耳や耳の穴に水ぶくれ、かさぶたを伴うハント症候群です。ベル麻痺は長いあいだ原因不明といわれてきましたが、近年の研究によって、顔面神経の奥に潜伏していた単純ヘルペスウィルスが、激しい寒さに晒されたり過労やストレスに見舞われたりすることで、異常増殖して起こるらしいことがわかってきました。


今回は単純ヘルペスウィルスによる左顔面神経麻痺(ベル麻痺)のケースをご紹介します。


1ヶ月前から当院に通っていらっしゃる38歳の女性で、当初は左眼が完全には閉じず、笑うことが難しく、もちろん話もしにくい状態でした。左耳の裏に痛みあり、ときどき左側の耳に音が異常に大きく聞こえるといいます。来院されたのは発症から2週間後のことでした。病院でステロイド、メチコパールなどの薬を処方され、神経的な症状は少し改善されたものの、麻痺が依然としてひどいので、知り合いから紹介されて当院を訪ねて来られました。この患者さんの場合、最近新しい職場に移ったばかりとのことでやはりストレスがあったのでしょう、免疫力が低下してヘルペスウイルスが増殖したようです。舌を拝見したところ、中医学でいう「舌質赤・苔薄黄」が現れており、「脈浮」「風熱」の症状があるところから、おそらく気血の流れが悪くなって顔の筋肉に栄養がいきわたらなくなり、顔面神経麻痺を発症したものと考えられました。


鍼灸治療としては、顔面と顔面神経の出所である耳の裏側に加え、手や足のツボにも鍼を打つ方針で行ないました。麻痺の状態を見ながら、毎回微妙に鍼の打つ角度や深さを変えることにしました。10回の治療(1クール)でおよそ7割が治癒したと判断、現在は完全回復に向けて通院していただいています。