日本はいまや
世界有数の「がん大国」だと言われます。 国民の二人に一人が癌になり、 三人に一人が癌で亡くなっているそうです。 その一方で、 次々に新薬が開発されるなどして、 がんは昔のように「死」と直結する病気ではなくなりました。 がんを抱えながらも、 それなりに「健やか」に生活することが 可能になってきています。 みなさんのご家族やお友だちのなかにも、 がんを抱えながらお過ごしの方が いらっしゃるのではないでしょうか。 こうした「がんとともに生きる」時代に、 私たち鍼灸師はどんなお手伝いができるのかと考えます。 あらかじめ申し上げておきますが、 残念ながら、 鍼治療で「がんを治す」ことはできません。 しかし、抗がん治療の副作用を緩和するためには鍼治療が有効です。 化学療法による吐き気や食欲不振、 造血細胞の減少などに対しては、 東洋医学による治療法が効果を上げることが少なくありません。 比較的よく知られているのが 漢方薬や様々な健康食品、免疫療法などで、 最も広く用いられているのは 霊芝、舞茸、アガリクス等のキノコ類です。 一方で化学療法や放射線療法などに伴う 吐き気や下痢、あるいは疼痛の軽減には 鍼灸が有効であることが知られており、 結果的に患者の余命の長期化に役立つことも稀ではありません。 実は、WHO(世界保健機関)の報告でも、 「治験を通して鍼が効果的な治療だと証明されてきた症状」の筆頭に、 「放射線療法または化学療法による副作用」が挙げられています。 西洋医学の研究論文を読むと、 鍼治療の効果に懐疑的な研究者でも 「抗がん治療に伴う副作用の軽減効果」は 認めていたりするので驚かされます。 私も実際に、 抗がん剤点滴後の胃のもたれ、 むかつきに苦しむ患者様に鍼治療を施し、 症状が楽になって食欲が出てきたと 感謝されたことがあります。 がんに限ったことではありませんが、 西洋医学による治療を中心に据えながらも、 個々の患者の状態に応じて 鍼治療などを効果的に組み合わせる、 言わば「オーダーメイドの医療」がいま注目を集めています。 日本が超高齢化社会に変わっていくなか、 西洋医学と 鍼などの補完・代替医療を統合することで、 両者の特性を最大限に活かし、 一人一人の患者に最も適切な医療を提供することが求められています。
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私はいま大学院で
西洋医学の視点も入れながら 鍼灸を見つめ直す研究をしています。 そうしたなか、 先日はうつ病に対する鍼治療の効果について学びました。 WHO(世界保健機関)が うつ病に対する鍼治療の効果を 認めていることは知っていましたし、 当院でも、18年前の開院以来、 現実にうつ病の治療を行なってきています。 しかし、西洋医学のルールに基づく臨床試験が盛んに行われていることは、 今回、大学院での講義で初めて知りました。 当院の治療にも参考になる内容が多くあり、 また患者様に世界レベルの鍼灸研究の 一端を知ってもらう意味でも、 学んだことのほんの一部ではありますが ここに書いてみたいと思います。 世界中の医学的な治験(論文)を網羅した「コクラン共同計画ライブラリー」は、 西洋医学の臨床試験の報告が大半ですが、 なかには鍼灸治療に関する 実証的な研究論文も含まれています。 そのなかに、 比較実験によって うつ病に対する鍼治療の効果を調べた論文が700本以上あるそうです。 例えば、2010年にスミスさん、 マクファースンさんらが発表した論文では、 抗うつ薬と鍼治療を組み合わせると抗うつ薬だけの治療より症状が改善すること、 当院でも行なっている鍼に通電しての治療と 新規抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)を組み合わせた場合、 SSRI単独の治療に比べて明らかに症状が改善することなどが報告されています。 西洋医学の薬物療法と 東洋医学の鍼を組み合わせることで、 より高い治療効果を期待できるのです。 また、チャン(張)さんという人の2003年の論文では、 頭頂にある「百会」、 眉間にある「印堂」というツボを中心に、 いくつかの追加的なツボも合わせて電気鍼による治療を行なったところ、 抗うつ薬(SSRI)による治療に比べて症状の軽減に役立ったとされています。 こうした臨床試験による鍼灸効果の研究は まだ充分とは言えないようですが、 うつ病に限らず、 西洋医学と鍼の組み合わせが効果的だとするものが少なくありません。 病院と連携した治療のシステム作りなど 現状では課題も少なくありませんが、 こうした研究成果をできるだけ当院での治療に活用していきたいと考えています。 |
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3月 2023
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