がん患者の〝生活の質〟向上のために
日本はいまや世界有数の「がん大国」で、国民の二人に一人が癌になり、三人に一人が癌で亡くなっています。その一方で次々に新薬などが開発され、(日本で患者数が多い)大腸がんであれば、抗がん剤や放射線療法の進歩などによって全ステージ平均の5年生存率は72.1%。まさに「がんと生きる時代」ですが、それは同時に多くの人たちが抗がん治療の副作用に耐えながら生きていく時代でもあります。鍼灸治療は「がんを治す」ことはできませんが、つらい副作用を軽減するためには大きな役割を果たすことができます。
WHOも認めた副作用緩和効果
実は、WHO(世界保健機関)の報告でも、「充分な臨床治験を通して鍼が効果的な治療だと証明されてきた症状」の筆頭、「Adverse reactions to radiotherapy and/or chemotherapy」との記載があります。「放射線療法と化学療法の、双方、あるいはいずれかによる副作用」という意味です。西洋医学の研究論文を読むと、鍼治療の効果に懐疑的な研究者でも「抗がん治療による副作用の軽減」は認めていたりして驚かされます。苦しい副作用を緩和し、がん患者のQOL(生活の質)の向上を図るために鍼灸が果たす役割は大きいものです。
鍼治療による副作用緩和の実例
「抗がん治療の副作用の緩和」といっても、がんの種類や治療方法によって副作用もまた異なることはいうまでもないでしょう。ここでは、患者数が多く、当院でも治療実例がある大腸がんの場合を見ていきます。
日本で行なわれている大腸がんの標準治療(化学療法)は2種類あります。FOLFOX療法と FOLFIRI療法です。FOLFOXで使用する薬剤はフルオロウラシルとフォリン酸、オキサリプラチンであり、FOLFIRIの場合はフルオロウラシルに加えてフォリン酸、イリノテカンです。双方ともさらにベバシズマブなど分子標的剤と組み合わせるのが一般的です。FOLFOX療法の副作用は食欲不振や下痢、吐き気などに加え、手足の指先のしびれが知られています。FOLFIRI療法ではより激しい下痢が起こり易く、髪の毛の脱落が顕著です。下痢や吐き気、胃のもたれで食欲を失えば、体力の落ち込みが懸念されます。
当院の患者様のケースをご紹介します。再発大腸がんでFOLFIRI療法を受けている62歳の男性です。病院から処方された漢方の整腸剤(半夏瀉心湯)がよく効いて、幸いにも下痢はほとんど起きていません。しかし、抗がん剤を点滴で投与して数日間は胃が重く感じられ、胃腸が動きを止めたかのような強い不快感で食欲不振の状態が続いていました。そこで内臓機能を調節する背中や腹部のツボに鍼を打ったところ、早くも施術中から「凍っていた胃腸が雪融けでグルグルと音を立てて動き出した」感じがするとのことで、お腹が減ってきたと喜んでいただきました。
こうした抗がん剤の投与に伴う胃のもたれやむかつき、胃腸の機能低下などに鍼治療は大変に有効です。化学療法や放射線療法などがん治療の副作用に苦しんでいらっしゃる方は、ぜひ一度、当院の鍼治療をお試しください。